直径5ミリ以下の小さなプラスチックの粒子「マイクロプラスチック」。海洋生物が飲み込むことによる海の環境汚染の広がりが国際的な問題になっています。実はこのマイクロプラスチック、海だけでなく大気中にも拡散していて、国境を越えるレベルで広範囲に飛散している可能性があります。福岡工業大学の環境科学研究所ではこの実態を解明するため、「大気中」に存在するマイクロプラスチックを顕微鏡による観察や機器分析によって固定することで確認・定量評価するとともに、大気中をどのように移動しているのか、越境輸送ルートを明らかにするための研究を行っています。
この研究はことし、文科省の科学研究費助成事業や民間からの助成※にも採択されています。
※科学研究費助成事業:「大気中のマイクロプラスチックの存在と定量評価に関する研究」
※公財)アサヒグループ学術振興財団:「大気中を長距離移動するマイクロプラスチックの測定方法と分析方法の確立及びその動態解明」
マイクロプラスチックとは
適正処理されなかったプラスチックが陸上や海の自然の力で粉砕され、直径5ミリ以下の微粒子になったもの。南極から北極まで世界中の海水や深海生物からも検出されていて、広域での海洋汚染が国際課題になっている。生態系に与える影響は未解明の部分が多いが、プラスチック粒子に有害化学物質が吸着されて粒子が有害物質の「運び屋」になっている実態があり、汚染状況の統一的な定量評価方法や生物に与えるリスクの客観的な評価が急務になっている。福岡市の大気中にも!マイクロプラスチックを確認
研究では大気中のマイクロプラスチックの存在を明らかにして、その定量評価方法を確立します。そしてその長距離越境移動の実態を解明します。今後、九州や北アルプスなどの山岳地帯で大気や雨の中の物質を採取。集めた物質を、これまで環境分野での研究ではあまり用いられることが少なかった、IRイメージング、電子顕微鏡、顕微ラマン分光分析装置などの機器を用いて観察・分析。大気中にあるマイクロプラスチックがアジアの国境を越えて移動するのか、確認します。ことし3月、この分析手法で福工大の屋上で採取した大気や降水中の成分を分析したところ、マイクロプラスチック片が確認できています。
ポリプロピレンの破片
ポリエチレンの破片
いつ、どこから飛来する?読み解くカギは「樹氷」「湖沼堆積物」
福工大環境科学研究所が大気中のマイクロプラスチックの越境輸送実態解明のヒントと考えているのが、研究所がこれまでに全国のおおむね1500m以上の山岳地帯で採取した「雪と樹氷」です。樹氷は雲粒などマイナスの温度に達している過冷却水滴が山岳地帯の木や岩などに衝突する際に凍結したものです。その際に採取地点で過冷却水滴に含まれる物質とともに凍結します。この性質を利用して樹氷を分析し、樹氷が着氷したときの空気塊の飛来ルートをたどれば(後方流跡線解析)、樹氷中に含まれるマイクロプラスチックがどこから、どれくらい飛んできたのかを検討することができ、マイクロプラスチックの長距離輸送経路を明らかにできる可能性があります。
さらに、マイクロプラスチックの動態を解明する材料の一つが、山岳湖沼堆積物コアです。流入河川がなく、人為的汚染のない山岳湖沼の堆積物コアにはこれまでに飛来したマイクロプラスチックが長年堆積した状態で保存されています。これらの堆積物を層毎に分析することによってマイクロプラスチックがその地域に飛来し始めたのはいつか?飛来量がどう増減したのか?汚染史を明らかにできます。
全国の湖沼で採取され、福工大に保存される「堆積物コア」
【福岡工業大学 環境科学研究所】
これらの研究の中で培った分析技術や長年採集してきた試料を基に、マイクロプラスチックの実態を明らかにしていきます。
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