電気配線やセンサーなしで色変化、強靭な世界初の新素材
福岡工業大学大学院工学研究科生命環境化学専攻の宮元展義准教授の研究グループは、約100万分の1mmの薄さの無機ナノシートの集合体を用いて、力を検知して色変化を起こす新素材「無機ナノシート構造色ゲル」を開発しました。この新素材は、極めて微弱な力(1kPa)を検知して色が変わり、色変化は何度も繰り返して起こすことが出来ます。このゲル膜を使えば複雑なセンサーの取り付けを行うことなく物体表面の力をリアルタイムで可視化できます。また、無機ナノシートが高分子ゲルとナノレベルで複合化されているため、高い強度と柔軟性を併せ持ちます。これらの特性から、表面加重を可視化することが重要なスポーツ科学分野や、水力発電用水車などのエネルギー機器開発分野で役立つことが期待されます。さらに、この新素材は、無機ナノシートの液晶特性を利用して製造されるため、低コストで作成できます。この研究成果はドイツの化学誌『Angewandte Chemie International Edition』で掲載されるのに先立ち、Early viewとして、3月3日付けでonline掲載されました。
色変化の基になる「構造色」とは
蝶の鱗粉や、クジャクの羽、オパールなどの輝きは本来無色の物質が特別な構造を形成することで、表面に当たる光を様々な角度で反射して鮮やかな色を発しています。こうした原理による発色は「構造色」と呼ばれ、染料などとは異なり、耐久性があり、また構造変化によって色調が変化するなど、多くの利点があります。これまで、球状シリカ粒子などを利用して自然界の構造色を模倣する研究が数多く行われてきました。
本研究では「無機ナノシート」を用いて、新しいタイプの構造色材料を実現したことが大きな特徴です。このことにより、従来材料では不可能であった低コスト・高強度・高耐久性が実現されました。「無機ナノシート構造色ゲル」では、高分子ゲルの中に固定化されて、全体にわたって、ナノシートの厚みの数百倍の間隔で規則正しく並んだ特別な構造となっています。溶液の状態で形成されているこのような構造を破壊しないように固定化するのは非常に困難でしたが、合成条件などを試行錯誤することで、世界で初めてこれを実現しました。
強く、柔軟、高速応答。様々な用途に応用できる「無機ナノシート構造色ゲル」
1kPa(豆腐を押しつぶすのに必要な力の10分の1ほど)の弱い力を検知し、1000分1秒の以下のスピードで応答します。これにより、物体のどの部位にどれくらいの圧力がかかっているかを、リアルタイムでの色調変化としてとらえることができます。「無機ナノシート構造色ゲル」は柔軟性と強度(圧縮破壊強度3MPa)を併せ持っているため、荷重による破壊前兆を警告する表示デバイスを作ることができます。また、インクや染料と違って紫外線などによる褪色に強いため、色褪せない装飾品などとしても利用できます。
鉱物由来のハイテク素材「無機ナノシート」
研究者紹介
宮元展義(みやもと・のぶよし)准教授
福岡工業大学工学部生命環境化学科
専門分野:機能物質化学
研究キーワード:無機ナノシート、液晶、高分子材料、ソフトアクチュエーター
本研究は、キヤノン財団研究助成プログラム産業基盤の創生「層状ペロブスカイトに基づく機能性無機ナノシート液晶の開発」および、文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業「革新的エネルギーデバイスの開発:ナノ複合誘電素材の創成と実装」の助成を受けて実施されました。
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